汚部屋彼女と潔癖彼氏

ADHDで腐海の森のごとき不快な汚部屋を片付けるべく奮闘したりしなかったり。

『悪臭日記』

’’僕らは書き記す。この鼻につく、真実だけを”


ぼくらは<大きな部屋>からやってきた。バスや新幹線、自転車を乗り継いでこの<小さな部屋>にきた。


家に入ると、そこはまず台所で、その向かいにはトイレとお風呂がある。一部屋だけで、とても狭い。ぼくらは自由に部屋の中を動き回れる。


水周りは水あかがついていたり、長い髪の毛が落ちている。台所は、どこかしも汚れている。黒ずんでべとべとと手につき、野菜の切れ端が落ちている。つんと腐った臭いがしたかと思うと、机の下にあけられていない、納豆のパックが落ちていた。

ぼくらの体は、その部屋と、部屋の女主人の体と同じように、臭い。 


この部屋の女主人は、出したものを元に戻さない。衣類も、なかなか洗濯しないのですぐに清潔な服はなくなってしまう。

着ている服は服は破れ、ボタンもとれるし、靴は磨り減る。


「<小さな部屋>は汚い」と書くことは禁じられている。なぜなら、<小さな部屋>は、ぼくらの目に汚く映り、それでいてほかの誰かの目には美しく映るのかもしれないから。


冬の真っ只中、雪の降りしきるなか、ぼくらはベットに座っていた。そこしか座るところがなかったからだ。入り口をノックする音がし、若い女が2人入ってきた。<小さな部屋>の女主人が、親しげに2人に話しかけ、招き入れる。1人は女主人の姉で、もう1人はその姉の友人のようである。

「こんにちは、片付けにきたんだけど…」

女達は言葉を途切らせ、眼差しを部屋に向ける。

「まぁ、汚い部屋ね!」

女主人の姉とその友人がてきぱきと手際良く部屋を片付けている。女主人は、うろうろとうろつき、何から片付けるか分からないようで、突っ立っている。


どんどん部屋が片付いていく。


訪問者が来たようで女主人は部屋から出る。下から若い男の声が聞こえる。会話から、2人は恋仲のようである。女主人の弾んだ声がいっそう高くなる。


「ありがとう!本当は、ちょっと上がってもらって、紅茶でも出したいのだけど!まだ入れる部屋じゃないの!」

「ほんとそうやで、普通の女の子やったら、上がってケーキでもつつくんだよ!早く片付けてね!ケーキ、お姉ちゃんと食べてね。」


女主人が<小さな部屋>に戻ってくる。手には、ケーキの箱を持っている。中には、装飾が施された陶器のカップに色々な種類の果物が乗っているケーキが3つ入っていた。

女主人の姉は憐れんだ目でそのケーキの箱を見て、「かわいそう、きっと、部屋で3人で食べるつもりだったのよ。残念、今はまだ入れる部屋じゃないものね」

埃の舞う部屋に、場違いなほど光るケーキを<小さな部屋>にいる3人は、掃除用具を置き、立って食べる。


日が暮れ、窓の外も薄暗くなったころ、女主人の姉は<小さな部屋>を飛び出し、その友人は<小さな部屋>に残り、引き続き片付けをしている。

ぼくらも、一人は<小さな部屋>を去り、残った方の一人は、女主人の

部屋に戻る。